その瞳をわたしに向けて
「清宮さん、仕事中申し訳ないね。」
そう言われて促され入った常務室は、少し重苦しい雰囲気だった
美月を見て、関心したように驚く泉夫人
「本当にお久しぶりね、驚いた……会社の制服なんか着ていると雰囲気が変わるものね」
ゆっくりと応接セットのソファーに軽く座る美月に杉村常務が夫人に口を挟む
「会社の制服を着ているのは、当たり前です。彼女は一般職としてうちで働いているんですから」
「…………」
「働くって、でも美月さんがこの会社にいるのは、あなたとの縁談のためでしょ。」
そう言う夫人に対して杉村常務は溜め息をつきながら隣に座って美月の方を向いた
「この縁談の話は、清宮社長と伯父とのお酒の入った会食中の世間話から出た話なんだ」
「お酒の?」
美月の父親は、美月同様あまりお酒は強くない
「そう。君の就職の事から盛り上がって、いつの間にか結婚話までどうも発展したらしい。」
なるほど……言うことを聞かない娘の話で盛り上がってた訳ね。それは私のところに話が届かない訳だ
「結婚話となると伯母の方がが張り切り出してね、でっ今日はここまでやって来たと言う訳です」
まあ………なんと分かりやすい「何ですかその説明は………貴也さん分かっていらっしゃるの?あなたにはとてもいいお話なんですよ。」
「伯父さん達が……の間違えではないんですか?」
「…………」
いつもと全く雰囲気の違う杉村常務の表情に驚いた
まるで親子喧嘩みたい………
落ち着いた大人だった彼が今は夫人に反抗する事ばかりを口にしている
たぶん………杉村常務のお見合い話は今に始まった事ではないんだろう
暫くすると、北川さんが紅茶とシフォンケーキを持ってきた。
が、この場の雰囲気の改善がないのに溜め息をついて肩を落としていた。
「だいたい、あなたはいつまでもふらふらしていないで、さっさと身を固めることを考えなさい!」
「ふらふらなんてしていませんよっ。ちゃんと相手は自分で決めますと、言ってるじゃないですかっ」
「ぷっ……」
35歳の立派な社会人がまるで母親に怒られているみたいで思わず吹き出してしまった
「あ…………すみません」