その瞳をわたしに向けて


昼間に業務を抜けていたが、定時どおり仕事は終わり帰り支度を始めた美月。

どうせ、立花さんは残業なんだろうし、一応伝言は伝えてある。今はまだ出先から帰ってないみたいだけど、今日の事は杉村常務から話されるのだろうと思う。

別に……私から何か言わなくてもねぇ………


正直、ここまできて未だに立花さんと杉村常務について話をした事がない………



「瑠璃ちゃん、今日忙しいかなぁ………」

なんだかさっさと一人暮らしのうちに帰りたくなかった

化粧直しをするため、いつものパウダールームに入った

鏡に映る不機嫌な自分を見て溜め息がでる


「あれ?これ………立花さんのかな?」

鏡の前に置き忘れた香水
可愛いリボン型のキャップにピンクの宝石のようなビン


やだぁ………めっちゃっ可愛い………


手に取ってみればやっぱり、最近立花からほのかに香る匂いと一緒だ

こんな可愛い香水、たぶんあの杉村常務からのプレゼントだろう…………

甘過ぎない、フローラルな香り、少し指先にとって首元に着けた。

ほんのちょっとだけ………

微かに香るその匂いが美月の胸にある気分を少し解してくれた



パウダールームからでて、スマホを取り出しながらエレベーダーへ向かう途中、常務室の扉が少し開いていた。

夕方になってブラインドが降ろされてないのか、強い西日が扉から漏れていた。

定時後に常務室にって、まだ立花さんいないのかな………?


部屋の中を覗いて見ると、やはり西日の強い広い窓のブラインドは開いたままだった。
一部窓は空いていが、部屋全体日射しで眩しいくらい明るく、暑かった。



日が暮れたらどちらにしろブラインドは降ろさなければいけないし、誰もいないだろう……と部屋に入りもう一つ窓を開けて、全てのブラインドを降ろした。

途端、部屋の中は暗くなったがまだ日射しがある時間帯、電気をつける程ではなかった。


「…………ん」


レザーの皮の擦れる音がして、一瞬美月はビクッとした。

音のした方を見ると、杉村常務がソファーの長椅子で眠っていた。

全然気付かなかった…………


呆れる程寝息を立てていた。その寝顔も思わず見入ってしまうくらい綺麗な顔立ちをしている。

< 51 / 432 >

この作品をシェア

pagetop