その瞳をわたしに向けて

松田 side



「これ、飲んでいい?」

美月が松田の前にあるグラスを掲げている


「ダメだ。これはウィスキーだから、お前のはこっち。」

そう言って取り上げ、店員の持ってきたウーロン茶を差し出した。


それを大事に両手で持って、ゆっくりと飲み始めた。




俺は別にこいつを嫌っている訳じゃない。


ただ、入社当初から仕事に対する向上心のなさに、少なからずイラついていただけだ………


「なーんか、ちょっと暑いかも………」


そう言って、自分の手のひらでパタパタと扇ぐ仕草と片手で掻き上げるふわふわしたウェーブのかかった肩までの髪

普段色白の頬や首筋がほんのりとピンクがかっていたり、酔って潤んだ瞳とか…………

今の状態を、会社の男どもがどれだけ望んでいただろう


松田がウィスキーの水割りを飲みながら、深い溜め息をついた。


「杉村常務が、清宮に酒を飲ますなって言ってたのは、こうゆう事か……」


少し前にあった会社の飲み会で、立花を連れて帰る常務に言われた事を思い出した。

『清宮さんは、酒はダメだから飲まさないように、他の若い連中と何かあっても困るから。』

自分の恋人に、自分の縁談相手の面倒見させてたあの男も、どうかと思うが…………
確かに、清宮コンツェルの社長令嬢がなんでうちの部署に配属されるのかは疑問だったが

『お前は厳し過ぎる。今、会社を辞められては困るから、もう少し接し方を考えろ』と念を押された。

あの男も大概、会社一族だからなぁ……清宮に極端に優しかったのはその為だろう。


清宮が思うより、ずっと腹黒い男なんだが………


「そんなにいいかねぇ………」


一通り食べて飲んで、落ち着いた美月に頬杖をついてそう言うと、ふふっと笑った

「あのね、杉村常務って昔付き合ってた人に似てるの」

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