その瞳をわたしに向けて
1時を過ぎた頃、立花が会社に出社してきた。

今から立花が完璧にサンプル資料を作成するのが最短で、美月は部署に入って来た立花を見つけて席を立つが、すぐに松田に呼び止められて、二人は目の前で話を始めた

簡単に現状を説明しているか、一瞬立花がこちらに視線を向けたのに胸が痛んだ


そんな二人は打ち合わせのため、パーティーションのミーティングスペースに消えて行った

一度立ち上がった腰をストンと椅子に下ろす


ずっと責任を持って仕事をしてきた二人の姿に、言い様のない劣等感を感じる



たまに鳴った電話を取ると、総務から受けた電話の内容が告げられた

『川村冷蔵の川村様から松田さんに電話が入っています。』


「分かりました、こちらで対応します」

松田はまだ立花と打ち合わせ中だから、用件を聞いておこうと美月は電話の保留番号を押した

松田は今席を外しているので、折り返し電話させるか伝言を伝えますと言うと、対応相手が美月だと分かった川村社長の明るい声が聞こえた

『元気ないね、どうしたの、弱ってる美月ちゃんも見たいから、今夜ご飯どう?』


………またこの人は、本当は忙しい人なんだと思うのに


いつものように軽く口説き文句をつけながら食事に誘われたのを、社交辞令的に対応し、断って電話を切った


ミーティングが終わった様子を見計らって、川村社長の電話を松田に伝えた


松田は分かったと自席で電話をし始め、立花はすぐにパソコンを立ち上げ業務にとりかかっていた
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