そして星は流れて消えた
プロローグ
「望月先生ーー!!」
病院の廊下、白衣の後ろ姿を見かけると
私は一目散に走る。
そして先生は私の方へ振り向いた。
「天野さん。廊下は走るなって何回言ったらわかるんですか」
先生は黒縁メガネをクイっとあげ、呆れた声で言う。
いつもの、綺麗な低音の声で。
この人は望月北斗先生。
脳神経外科で、私の主治医。
そして、この望月総合病院の院長の息子でもある。
「えへへ、ごめんなさい。先生の後ろ姿見たらつい」
「もうすぐ昼食の時間ですよ。病室に戻ってください」
「あとで先生が私の病室に遊びに来てくれるなら戻る」
「僕は午後も忙しいので無理です」
「いいよ、気が向いたらで」
真面目な堅物。
それが先生のまわりからの印象だった。
常にクールで笑っている姿を誰も見たことがない。
院長の息子だからと言って傲慢な態度をとるわけでもなく、まだ28歳だというのに非常に優秀でそういう意味でも一目置かれている存在。
まわりは先生は冷たいと言う。
子供は泣いてしまうことが多いらしい。
でも私はそうは思わないんだ。
先生の後ろ姿を見送りながら、
私は顔を赤らめて今日も話せたと幸せに浸っていた。
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