そして星は流れて消えた


「外出許可、ですか」

ナースステーションを通りかかった望月先生を呼び止め、私はいきなり切り出した。


「うん1週間後に、1日でいいの」



先生は黙り、難しい顔をした。

「看護師の小夜ちゃ…じゃなくて美空(みそら)さんに付き添いを頼んだの。それでもだめかな」


「看護師の美空小夜を付き添いにですか…」


険しい顔のまま、厳しい言葉が言い放たれた。



「許可できません」


「やっぱりだめ?」

そう言われるのは承知の上だった。


それでもどうしても、先生へのプレゼントを買いたかった。


「いくら看護師に付き添いをさせても、許可できません。最近は病状が安定しているとは言っても、もし万が一のことがあればあなたは…」


私が宣告された余命は、今年の2月から数えて1年前後。



最近は気分が悪くなったり、頭が痛くなったりといったことは時々あったが、重い症状が出ることはほとんどなかった。





しかし入院する際に、次に重い症状が出るとどうなるかわからないと言われていた。



「あと、8ヶ月だよ」

こんな我が儘聞いてくれないのは予想済みだった。

でも、それは時間がないからこその我が儘だった。


「宣告された私の"残り時間"は、あと8ヶ月くらいしかないの。これからは絶対に先生の言うことを聞く。これは私の、最期の我が儘…」





先生にとっての私は、多くの患者の中のひとり。

私と過ごすこの日々も、先生の人生の7、80分の1に過ぎない。



私のことなんて、いつかは忘れてしまう。

絶対に。






でも、そんなの嫌だった。


先生には、覚えていてほしい。



私がこの世に存在していたことを。
そして、先生を好きだったことも。



だからどうしても、プレゼントを贈りたかった。

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