そして星は流れて消えた
「…わかりました」
放たれた言葉は意外なものだった。
「え?」
「許可します」
先生には反対されると思っていた。
「ありがとう先生」
「ただし、外出は1週間後。朝の10時から夕方の4時の6時間だけです。これを守るのならば、許可しましょう」
「十分だよ。もちろん守る。本当にありがとう」
何を買おう。
先生が普段使えるものがいいなあ。
使ってくれるかな。
嬉しい気分のまま病室に戻ろうとする。
先生に背を向けたときだった。
「それにしても、外出してなにをするんですか」
ギクッ。
そうだった。
理由を考えていなかった。
"先生の誕生日プレゼントを買いに"なんて言えるわけがない。
聞かれるに決まっているのに、そこまで頭が回っていなかった。
「も、もうすぐお父さんとお母さんの結婚記念日なのっ!」
とっさに出た言い訳だった。
でも、とっさに言ったわりに本当だったことに気づいた。
そういえば先生の誕生日のあと、すぐ結婚記念日だ。
「結婚記念日、ですか…」
「う、うん。いつもお世話になっている両親になにかあげたいじゃない」
私は幸せな家庭に生まれたんだと、最近実感するようになった。
今の世の中は離婚する家庭が多くシングルマザー、シングルファザーになるケースは珍しくない。
そして子供に暴力をふるった親が逮捕されるというニュースも、ちらほら見かける。
でも私は、そんな不幸とは縁もゆかりもない家庭で生まれ育った。
学校でも友達はいたし、いじめられたことだってなかった。
いま私は病気という人生最大の壁にぶつかって、気づいた。
自分がどれだけ幸せな環境にいて、何不自由なく暮らしてきたかを。
そしていま、好きな人の近くに居れることがどれだけ幸せかを。
「…あなたは、他人想いですね。幸せな家庭で育ったんですね」
このときの先生の悲しい表情に、私は全然気づいていなかった。