そして星は流れて消えた


「ごめんなさい」

急に先生が静かな声で言った。



「なんで謝るの?」


「やはり、許可するべきではありませんでした。あなたの体に大きな負担をかけてしまった」


違う先生だったら、絶対に"だから言ったのに"と言うだろう。


なのに望月先生は謝ってくれている。



先生は謝るようなことはしていないのに。




「ううん、私が先生に我が儘を言ったからだよ。先生は悪くない。もし今回のことで私の寿命が縮んでしまったなら、それは私自身のせいだから。私が決めたことだもん」



「ですが…」


先生は自分を責めているようだった。


こんなにも私の体のことを心配してくれている。



やっぱり先生は優しい人だった。





「先生、私の荷物はどうなったの」


「ああ、荷物は全部ロッカーに入れておきましたよ」



「荷物の中に、紺色の紙袋があったはずなんだけど、取り出してくれる?」



「紺色の紙袋ですか?」




先生はロッカーを開け、小さな紺色の紙袋を取り出した。


「これですか」


「うん、開けてみて」


「開けていいんですか?わかりました」


紙袋の中の、リボンがかかった小さな白い箱を取り出す。


先生はリボンをほどき、白い箱の中の紺色の高級そうなケースを開ける。







「これは、ネクタイピンですか」


男の人は、シャツやネクタイはある程度持っているもの。


でもネクタイピンは、持っていてもそう数は持っていない。




小夜ちゃんのアドバイスで、私は直感した。


だから先生に似合いそうな、シンプルなシルバーのネクタイピンを選んだ。



「先生の誕生日、7月7日なんでしょ?」


先生は驚いた顔で私を見た。

「よく知ってましたね。もしかして、今回の外出はそのために?」



「うん。1週間早いけど、先生にもらってほしいの」



「これ高かったんじゃないですか?僕がもらうわけには…」



先生がそう言ってくるのは予想できていた。


先生に誕生日プレゼントをあげることは、迷惑なのかな。


でも先生は言ったはずだ。


ずっと聞けなくて。
いまなら言えると思った。




「先生は4月に私に言ったよね。"僕達付き合いましょう"って。あれはどういう意味だったの?」


この3ヶ月。

私たちにはそういった関係の進展なんて一切なかった。



深い意味じゃなかったのかな。


付き合うって、私が思っている付き合うとは違うのかな。


何度も何度も考えた。

けど自分自身に問いかけたって、答えなんて見つかるわけがなかった。



少し間をおいてから、先生は口を開いた。

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