そして星は流れて消えた
夜の22時に病院は消灯するが、私は消灯してすぐはほぼ寝たことがない。
星空見ながら、シャッターを切る。
これは私の日課だった。
空に一筋の流れ星。
流れ星が消える前に願い事を3回唱えると、願いが叶うとよく言う。
でもそんなこと、無理なのはわかりきっている。
だから流れ星を見たって願い事を3回唱えたりなんてしない。
"どうか一日でも長く生きられます様に"
1度だけ願い事を心のなかでつぶやく。
それだけでも気持ちの持ちようが変わる気がした。
ーーガラッ。
病室のドアが開く音がした。
「星華」
そこに立っていたのは先生だった。
脳神経外科に行った時に、白髪の先生に伝言を頼んだ。
"あとで病室に来てほしい"と。
「先生、来てくれたんだ。ほら座って」
先生はベッド脇の丸椅子に腰かける。
「先生、付き合うのはもうやめよう」
私は笑顔でそう言った。
「もう十分だよ"恋人ごっこ"は。私は先生のそばにいれて十分幸せだったよ」
絶対に泣いてはいけない。
泣いてしまえば、気持ちが揺らいでしまう。
私は笑顔で乗り切るつもりだった。
「脳神経外科に行ったときに聞いたの。先生が私の担当医に志願したって。責任感じてたんでしょ。自分が"悔いのない選択をしろ"って言ったから、私がちゃんとした治療を受けなかったって」
先生の顔が曇る。
意外にも、先生は考えていることが顔に出てわかりやすい。
「治療をすれば、余命より少し長く生きられるはずだと説明を受けたはずだ。なのに君は治療をしない道を選んだと聞いて…」
「それは、写真を撮れなくなるからだよ。カメラを握れないなら、私には生きている意味がないと思えるほど、写真は私にとって全てだったから。私は後悔なんてしてないって、言ったじゃない」
「……」
先生はなにも話さない。