そして星は流れて消えた
「わあ、綺麗!」
病室とは違い、私のまわりには一面の星空が広がっていた。
「今日だけ特別だからな」
準備しろというのは私服に着替えて待ってろという意味だった。
先生は15分遅れて23時45分に迎えにきた。
「綺麗だけれど、さすがに寒いね」
私は満天の星空の中、夢中でシャッターを切る。
「あっ」
先生は小さく声をあげた。
「お誕生日おめでとう」
腕時計を見ると、0時を回っていた。
私はまた先生そっちのけで写真を撮ってしまった…
「星華、こっちきて」
手招きする先生のそばによると、先生はポケットから白い箱を取り出した。
私がネクタイピンをあげた日のことがフラッシュバックされる。
「これ、開けてみて」
なにが入ってるんだろう。
ドキドキしながら開けると、中にはシルバーの鎖で真ん中に1つの星のついたブレスレットが入っていた。
「可愛い」
寒いことなんて忘れるくらい、私は顔が火照っている。
先生からのプレゼントなんてはじめてで、先生が私のためにお店に行って選んでくれたんだと思うとこんなに嬉しいことはなかった。
「左手出して」
真ん中に付いた星はきらきら光り、星空のどの星よりも輝いて見えた。
「ありがとう、大切にするね」
このブレスレットがあれば、いつも先生が近くに感じられる。
きっとこの日のことを思い出してにやにやしているかも。
「星、綺麗だね」
「今日晴れてよかったな」
ちらっと横目では先生を見る。
先生の横顔を見るのは何回目かわからないのに、今日は一段とかっこ良く見えた。
ああ。
好きだな。
「なに見てるんだよ」
私が星空を見てないで、先生を見つめていたことに気づかれてしまった。
私は恥ずかしくて巻いていたマフラーに顔をうずめる。
「……手、繋ぎたい」
私は小さな声でつぶやく。
それを聞くと先生は、すっと私の右手を握った。
先生の手は温かい。
私の氷のように冷えた指先が、先生の体温がうつってとかされていくようだ。
あと何回、この温もりを感じられるだろう。
あと何回、この横顔を見つめられるだろう。
すっと流れ星が流れた。
私は"先生がずっと幸せにいられますように"と願って、先生にもたれかかった。