キミに出会うまで
そして、31日。


我が家は、朝からなんだかみんなでそわそわしている。


結婚しているお兄ちゃんが、奥さんと子供を連れて帰ってくるのは元旦で。


その前に、私の彼氏(フリだけど)が来るっていう、まさかの展開。


森さんとは、綿密に打ち合わせしたけど。


両親に嘘をつく後ろめたさと、森さんに変なことを頼んでしまった苦しさとが入り交じって、胸が苦しい。



そして、夜になり。


いつもとは雰囲気の違う中で、年越しそばを食べ、ミカンを食べながら紅白を観てるけど、3人の意識は玄関方面へ集中してて。


そして『ピンポーン』とインターホンが鳴り、お母さんが「はい、ただいま」と、よそ行きの声を出している。



「はじめまして、森優樹と申します。


年の瀬の夜分遅くにお邪魔しまして申し訳ありません」


「優樹さんね、はじめまして、どうぞあがって」



玄関からリビングに向かう途中、森さんは私に近づいて、そっと頭をポンってたたいた。


私がプレゼントしたカーキのカーディガンを着てくれていて、嬉しかった。



リビングでは、お父さんが緊張した顔でソファーに座っている。



「はじめまして。


優花さんとお付き合いしています、森優樹と申します。


年の瀬の夜分遅くにお邪魔しまして申し訳ありません」


「優樹くん、優花をよろしく頼むよ」


短い会話だったけど、お父さんは森さんを受け入れたみたいだった。



「さあ、お茶が入ったからどうぞ」


「いただきます」


「優樹さんはおいくつなの?」


「32です」


「優花と同じ大学なんですってね」


「はい、学部は理工学部なので違いますが」


「あら理工学部なの、優秀なのね」


「そんなことはないですよ」


「32歳ってことは、優花の兄と同じ学年かしら。


もうお誕生日は過ぎたの?」


「はい、8月ですから」


そうだったんだ、知らなかった。


「いま、優花と同じ会社なんですってね」


「はい、横浜支店から異動になりまして」


「そうなの、優花は会社でご迷惑かけてないかしら?」


「いえ、いつも一生懸命で、要望以上のことをやってくれます」


要望以上のことって、なに?


「母さん、質問はそれぐらいにしたらどうだ。


優樹くんがお茶も飲めないだろう」


「あらほんと、ごめんなさいね」


「いえ、お気になさらないでください」







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