キミに出会うまで
「ねえ、ちょっと待って」


あまりにも急な展開に、頭がついていかない。


私の手を握ったまま、優樹は私を見下ろしている。


「あれから3ヶ月だよ、どうして今ごろ・・・」


「優花に納得してもらう準備に、時間がかかったんだ。


来てもらえばわかるから、家でゆっくり話そう」



それから、手を引かれるままに駅に向かって、電車に乗った。


ほとんど会話はしなかった。


私は、家で何を言われるのか、怖かった。


別れ話なら、改めてしないで欲しいと思った。


自然消滅で構わないから。




「どうぞ」


「・・・おじゃまします」


優樹がドアを押さえてくれて、恐る恐る、玄関に入る。


あの日以来、初めて入る優樹の部屋。


パチン、と明かりが灯って、リビングを見渡す。


「うそ・・・」


家具がほとんどなくなっていた。


「優樹、引っ越すの?」


「引っ越さねーよ」


「じゃあ、なんで家具がなくなってるの?」


「まゆみの形跡をなくそうと思って。


あ、『まゆみ』って呼ぶのはイヤか」


「ううん、別に」


「やせ我慢すんな。


牧野まゆみっていうんだけど、牧野さんが家に来た理由は、前に連絡した通りだけど、そもそも何で引っ越すかっていうと、ダンナと離婚前提で別居するつもりだったらしくて。


だけど、よりが戻ったらしくて、別居はなくなって。


家具は全部いらないってことになったんだ」


「そう」


「で、けっこう高い家具だったから、製造元に相談したら、系列の中古家具店で引き取ってもらえることになってさ。


捨てるのにも金がかかるから、例え安くても引き取ってもらえる方が助かるから」


「そうなんだ」


「家具だけじゃなくて、タオルや食器や寝具も全部処分したから、時間がかかったんだ。


優花、誤解されるようなことして、本当にごめん」















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