キミに出会うまで
土曜日、本社組は同じ新幹線に乗って大阪へ向かう。


私は、部長と一緒に東京駅から乗ったけど、品川や新横浜から乗る人もいる。


着なれないスーツで、キャリーバッグを足元に置くか棚にのせるか迷っていたら、隣の空席に誰かがいる気配がした。


チラッと見たら、


「優花、なにモゾモゾしてんの?」


森さんが隣に座ろうとしていた。


「え、あ、おはようございます」


「おはよ」


「品川からですか?」


「そうだけど?」


「どうして会議に?」


「大阪支店のシステム部長と打ち合わせ」


「そうですか」


「優花は?」


「私は、あす・・・土屋先輩のピンチヒッターです」


「ふーん、荷物は上にのせるか?」


「あ、ではお願いします」


森さんは、私のキャリーバッグを軽々と持ち上げ、棚にのせてくれた。


「ありがとうございました」


「ま、優花みたいなおチビちゃんには、無理だからな」


「そんなことないです!


あの、一応出張で仕事中ですから、下の名前で呼ぶのはどうかと」


「わかったよ」




どうして、下の名前で呼ぶの?


からかうのもいい加減にしてほしい。


いま私は、てっちゃんに会ったら何て言えばいいか、頭の中が混乱してるんだから。



「おまえさ、元カレに会うからって、緊張しすぎ」


まわりの人に聞こえないように、小声でささやく森さん。


「おまえ、っていうのもどうかと思いますけど」


気にしてない、って強がったつもりだけど。


「無理すんな、今日絶対に決着つけなきゃいけないわけじゃないんだから」


「はい」


わかってくれてる同僚がいるだけで、心強かった。









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