気になるパラドクス
エレベーターに乗り込むと、黒埼さんが小さく吹き出した。

「美紅もそんなに恥ずかしがるな。俺まで伝染して恥ずかしくなるから」

「だって……」

「大丈夫だから。あいつはからかうのが悪い趣味なだけで害はないし、ガラス張りじゃない方のエレベーターに乗ったから」

のろのろと顔をあげると、楽しそうに振り返っている黒埼さんが見えた。

「その様子だと、今日は初めて尽くしな感じだな」

「うん……」

二度目や三度目、いつもの事なら、それなりに対応できるけど、そうじゃないことというのは、やっぱりドキドキするし戸惑ってしまう。

それは人として普通の事なんじゃないかな?

私だって、普段からそんなに顔は熱くならないし、恥ずかしがるような年齢でもないよ。
だけど経験則から計れない、計ろうとしてもそれを振りきってしまう。

そんな人じゃないの、あなたって。

今まで、男の人とクリスマスを過ごさなかったわけじゃない。
楽しいときもあったし、全部が全部、私の“女の子”の部分を蔑ろにされてきたわけじゃない。

むしろ違った意味で、大切にはされてきたんだと思う。

私には確かに赤いランドセルは似合わなかった。
服装も甘いパステルカラーより、はっきりした原色の方がより似合うだろうし。リボンよりヘアゴム、シュシュよりバレッタ。
ワンピースよりライダージャケットが見た目も格好いいんだろう。
繊細で華奢なアクセサリーより、ゴツいシルバーアクセサリーが合っていると思われるのも知っている。

それは間違いなく、見た目ではそうなんだろうけど。ただ、そこに内面の“私”とのズレが出てきてしまっていただけで……。

見た目は身長170越えの大女。
若干つり目で化粧も下手。
そんな見た目で、内面は後回しにされ続けられて、いつからかそういう風に自分が振る舞ってきた結果……とも言えるんだよね。

私の開き直り方が、ちょっとおかしかったのも確かだ。

「抱きついてもいい?」

「唐突だな。つーか、そんなこと聞いてするもんじゃないだろ。なんなら抱き上げるか?」

そう言いながら、両手を広げる黒埼さんに抱きついた。

黒埼さん、今日はお洒落に香水でもつけてるのかな。

いつも真新しい木の香りがするのに、今日は爽やかな匂いがする。
< 122 / 133 >

この作品をシェア

pagetop