気になるパラドクス
「絶対に高い」

「現実的な美紅が、とても愛おしく思うよ。まぁ、気にすんな」

コートを脱いで、寝室にクローゼットを見つけて掛けている黒埼さん。

うわー。嬉しいけど。嬉しいんだけど、逆に申し訳ない気分にもなっちゃうなー。

そうは思ってもボルテージは最高潮。
部屋をふらふら歩き回り、パタパタ確認してから黒埼さんのところへ飛んでいく。

「お風呂広いよ! 丸くてジャグジーぽいのついてた。しかも薔薇の形の入浴剤があったの」

「そうかそうか」

黒埼さんはニヤニヤしながらジャケットを脱ぎ、ネクタイを外している。

「一緒に入るか?」

「は……」

入るわけないでしょーっ!!

ホテルの一室に男女がふたりきりっていうことは、このまま何事もないで「じゃあ、お休みなさい」なんて事はないと私も思うけど。
でも、でもさ、お風呂に一緒には、ちょっと困る。

口を開けてパクパクしていたら、途端に吹き出されて不貞腐れた。

真剣に考えてるのに、笑うなんてひどい!

「すぐに押し倒すつもりなら、部屋に入った途端に襲うし。少しリラックスしろ」

そんなことを言われて、リラックスする人はいないと思うわー……。

「コートくらいは脱ごうな?」

黒埼さんにコートを脱がせてもらって、クローゼットにかけられた。

明らかに男物のコートの横に、明らかに女物の私のコート。

コート同士が寄り添っている様で、なんだか恥ずかしい!

両手で顔を隠して、ぶんぶん首を振っていたら、ドアのチャイムらしき音が響いて顔を上げる。

「何だろ……?」

「さぁ……?」

黒埼さんがドアを開けに行き、寝室の入口から様子を見ていたら、一之瀬さんじゃないホテルマンがワゴンを押して入ってきた。

軽いオードブルとサンドイッチ。それからクリスマスっぽいデコレーションの小さなケーキ。ワインボトルとグラスをテーブルにセッティングすると、ホテルマンは一礼して出ていった。

「黒埼さんが頼んだの?」

「いや。この時間帯に、これだけのセッティングするのは一之瀬だろ」

近づいてみると、淡いピンクのコップの中に、キャンドルの火が灯されていて、ゆらゆらとした灯りが、とてもロマンティックに見える。

じっと眺めていたら、黒埼さんが部屋の電気を消し、それからカーテンを開いた。

開いた窓から見えたものは、闇に浮かび上がる夜景……。

キラキラと輝いて、でもちょっぴり忙しない街中の夜の風景。

キャンドルの柔らかな灯りの中で、微笑んでいる黒埼さんも見つけた。

そこにそっと近づいて、窓を見下ろすと、行き交う車のライトがたくさん見える。

なんだろう。これは、ドキドキが半端ありません。
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