気になるパラドクス
それから身体を向き直されて、唇を軽く合わせる程度の、他愛ないキスを落とされる。
コトリと小さな音がして、それから持っていたグラスを取り上げられた。
目を開いて見ると、ふたつのグラスはテーブルに置かれていて、キャンドルの灯りが赤く透けて見える。
「ちょっと久しぶりだから、がっついててごめんな?」
カーテンを閉めた黒埼さんが、私の手を掴むとそのままスタスタと寝室に向かう。
ま、マジですか?
「え……と、あの。お風呂とか、シャワーとか?」
「だから、ごめん。後回し」
寝室につくと、噛みつくみたいなキスをされて、思わず言葉を失った。
息をつく暇もない、どこか性急なキスにちょっとだけ怯える。
けど、どこか嬉しく思ってしまう自分もいて驚いた。
「黒埼さ……」
ワンピースのファスナーが下ろされて、背中にひんやりとした空気を感じる。
それが足元にストンと落ちると同時にまたキスをされ、キスをしたまま抱き上げられた。
そして、唇が離れた瞬間に、ふたりでベッドに倒れ込む。
「あ、あの……?」
ひんやりとしたシーツの感触と、濃厚な薔薇の香り。
シャツのボタンを外していた黒埼さんが、ふっと顔を上げた。
「……怖いか?」
「ちょ……ちょっとだけ」
「まぁ、頑張れ」
無責任な! ちょっとは配慮してー!
と、思ったけれど、彼は首筋に顔を埋め、次の瞬間にチクンとした痛み。
「ひゃ……っ!」
痕をつけられたことに気がついたけれど、そこから熱が広がっていく。
ゆっくりと肌に触れる。
その彼の指先が熱い。
熱く感じるのは、自分が熱いから?
火をつけられるみたいに、快感がどんどん広がって、すでに思考は形を成していない。
……私も触れたい。
彼の背中に手を伸ばすと、思っていたより滑らかで、思っていたよりも筋肉質だ。そう思っても、すぐに快感の波にさらわれて……。
「……黒埼さ……!」
呼んだら、すでに乱れている髪をかき上げられて、艶然と微笑まれる。
「……こんな時くらい名前で呼べよ」
名前……? なんだった? 靄がかかった頭では、全然思い出せない。
ぼんやりしていたら、黒埼さんが髪をひとすくい手にとって、軽くキスをするのが見えた。
「政隆。まぁ、いいけど」
「まさた……っんん!」
重なりあった身体。
交わり合う熱に、すべてが浸食されていく。
もう何も考えなくていいのかも。
そして頭が真っ白になりつつ、縋りつくように黒埼さんにしがみつき……。
その視界の端に、少しだけ意地悪そうな、彼の笑顔が見えた。
コトリと小さな音がして、それから持っていたグラスを取り上げられた。
目を開いて見ると、ふたつのグラスはテーブルに置かれていて、キャンドルの灯りが赤く透けて見える。
「ちょっと久しぶりだから、がっついててごめんな?」
カーテンを閉めた黒埼さんが、私の手を掴むとそのままスタスタと寝室に向かう。
ま、マジですか?
「え……と、あの。お風呂とか、シャワーとか?」
「だから、ごめん。後回し」
寝室につくと、噛みつくみたいなキスをされて、思わず言葉を失った。
息をつく暇もない、どこか性急なキスにちょっとだけ怯える。
けど、どこか嬉しく思ってしまう自分もいて驚いた。
「黒埼さ……」
ワンピースのファスナーが下ろされて、背中にひんやりとした空気を感じる。
それが足元にストンと落ちると同時にまたキスをされ、キスをしたまま抱き上げられた。
そして、唇が離れた瞬間に、ふたりでベッドに倒れ込む。
「あ、あの……?」
ひんやりとしたシーツの感触と、濃厚な薔薇の香り。
シャツのボタンを外していた黒埼さんが、ふっと顔を上げた。
「……怖いか?」
「ちょ……ちょっとだけ」
「まぁ、頑張れ」
無責任な! ちょっとは配慮してー!
と、思ったけれど、彼は首筋に顔を埋め、次の瞬間にチクンとした痛み。
「ひゃ……っ!」
痕をつけられたことに気がついたけれど、そこから熱が広がっていく。
ゆっくりと肌に触れる。
その彼の指先が熱い。
熱く感じるのは、自分が熱いから?
火をつけられるみたいに、快感がどんどん広がって、すでに思考は形を成していない。
……私も触れたい。
彼の背中に手を伸ばすと、思っていたより滑らかで、思っていたよりも筋肉質だ。そう思っても、すぐに快感の波にさらわれて……。
「……黒埼さ……!」
呼んだら、すでに乱れている髪をかき上げられて、艶然と微笑まれる。
「……こんな時くらい名前で呼べよ」
名前……? なんだった? 靄がかかった頭では、全然思い出せない。
ぼんやりしていたら、黒埼さんが髪をひとすくい手にとって、軽くキスをするのが見えた。
「政隆。まぁ、いいけど」
「まさた……っんん!」
重なりあった身体。
交わり合う熱に、すべてが浸食されていく。
もう何も考えなくていいのかも。
そして頭が真っ白になりつつ、縋りつくように黒埼さんにしがみつき……。
その視界の端に、少しだけ意地悪そうな、彼の笑顔が見えた。