気になるパラドクス
「まず髪型が似合わない」

真面目な顔でいきなり私の三つ編みのヘアゴムを取り外し、髪をほどきはじめた。

「く、黒埼さん?」

「せっかくいい感じに癖毛なんだから、生かさない手はないだろ」

「いや。だって、多いしクリクリだし、これ以外の髪型だと邪魔くさい……」

反論していく間にも、黒埼さんは器用に両サイドの髪を分けて捻ると後ろでまとめる。

「ほら、スッキリした。これで邪魔にならないだろ?」

はぁ……さようですか。

「ついでに眉も似合わない。ちょっとつり目なんだから、昔ながらの山あり眉は古くさい」

ふ、古くさいとか言われたー!
ひどいー。

思っていたら、眉尻を親指でゴシゴシ消される。

「ちょ……っ!」

「俺は化粧はわからんが、配色と形で変わるくらいはわかる。アイラインも引いてないだろ。しかも、リップはベージュ系よりローズ系の方が合う」

くいっと顎を両手で上げられ、瞬きしながら黒埼さんを見上げた。

……男の人に、ここまで顔を凝視されたことあったかな。

ないと思う。だって、見つめていたら“怖い”って言われるから。

しばらく、そうして見つめあっていると……。

「ちなみに、驚いた時の顔がやっぱり可愛いよな」

ふっと笑うと、急に山が動いた気がした。

影がのしかかるように近くなって、慌てて身を引こうとしたのと、唇が重なるのと、ドアが勢いよく開くのはほぼ同時だった。

「黒埼さん! 何してるんですか!」

聞き覚えのある声がして、温もりだけを残して離れる唇。

「あーもー……強引に押し掛けたらダメだって言ったじゃないですか」

ちらっと見えたのは磯村くんだ。

「やー。今のは強引じゃなかったろう? たぶん」

まぁ、強引ではなかったよね。

なかったけどね。
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