気になるパラドクス
「村居さん。少し酔ってるな?」

呆れたような視線に、ますます顔を赤くする。

「酔ってません! どなたかがずっと睨んでるのに楽しく酔えるはずがないでしょう」

「そう言っても、それで六杯目なのは確かだしな。次は烏龍茶にしておけ」

「嫌です! 私は飲みにきているんです! 飲んで嫌な事は全部忘れるんだから」

「そこまで飲むなら、俺に持ち帰られても文句は言うなよ?」

じろりと睨まれて、睨み返す。

次は烏龍茶を頼もう!

決心して、ふーっと息をついた。

「黒埼さんて変な人ですね。普通の男の人は、ちっちゃい女の人が好きでしょう」

「決めつけんなよ。ちっちゃい女は嫌いじゃないが……」

彼は言いかけて、言葉を止める。

それから少し考えるように眉を寄せてから、腕を組んだ。

「……あんたは俺よりちっちゃい女だろ」

「どーせ黙ってたら怖いし、化粧も古くさいですー」

「つーか、仕事中以外はずいぶんおしゃべりな気もするし、今日の化粧は今時じゃないか」

「……部下に塗りたくられました」

空のグラスを置いて眉をさげると、小さく吹き出される。

「やっぱり可愛いな」

「今のでどこがどう可愛いに繋がるのか理解に苦しみます。と言うか、どうして私にこんなに構ってくるのかわからないんです」

「そろそろわかれよ。こっちは堂々と口説いてるんだから」

確かに、私だって堂々と口説かれているのはわかるんだけどね?

初対面から壁ドンされるわ、遭遇三回目にしてキスされるわ。

でも、ここまでされてるけど、意味はわからないのよ。

だって、そもそも数回しか会ったことがない人よ?
口説かれれば、私はすぐに落ちるとでも思われているの?

「よく知りもしないで、口説かれる身にもなってください。だいたい私は今月別れたばかりで、まだそういうのは遠慮したいです」

「それなら話は早いじゃないか、忘れさせてやるから俺に抱かれろ」

「あなたはどういう思考回路をしてるんですか!?」

抱かれろって何!
バカじゃないの、アホじゃないの!

「そうだなー。どうせなら金曜の夜がいいかな。抱き潰すかもしれないし、次の日休みの方がいいだろう」

絶対にそんな問題じゃないんだから!
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