気になるパラドクス
「嫌です。私は付き合った男以外とそういうことするの」

「俺は別にいいよ? 趣味合いそうだし」

趣味は合うかもしれないけど!
それとこれとは何かが違うと言うか。
いいよ……って何、いいよって……。

ん? いいよ?

どういう意味だ?

私は付き合った男以外とそういうことしないって断言して、黒埼さんは別にいいよって答えて?

それは、付き合うのはいいよ、という否定なのか、それとも付き合ってもいいよ、という肯定なのか。

黒埼さんを見つめると、彼はテーブルに肘をついてクスリと笑った。

「セックスだけの関係なら、わざわざ口説かなくてもいいだろう?」

「それでも多少は口説くでしょうが! 一応、雰囲気作りくらいはするでしょう!?」

今は雰囲気どころじゃないけどね!

「先輩、先輩!」

ぐいぐいと後ろから服を引っ張られて振り向くと、顔を真っ赤にした後輩が必死の形相でいた。

「なに?」

「黒埼さんと仲がいいのはわかりましたから。声を抑えて下さい、声を! 丸聞こえですから!」

「え……」

ポカンとして、集まって話しているグループの方を向くと、皆気まずそうに視線を逸らし始める。

……えーと。今の会話が丸っと聞かれてたってことかなー?

キッと黒埼さんを振り返ると、彼は涼しい顔で、それでもニヤニヤしながらビールを飲んでいた。

「はめたでしょ!」

「いやー……さすがにマーキングするでしょ?」

「ま……」

マーキングとか抜かしましたか!?

謎だ……謎過ぎる。そういや後輩の中では一番空気を読む、あの磯村くんが『何考えてるかわからない』発言していた。

これは凡人にはわからない世界だ。
< 21 / 133 >

この作品をシェア

pagetop