気になるパラドクス
「なんかもう、あんた驚かせるの趣味になりそうだなー。本当、楽しい」

ケラケラ笑う黒埼さんに、柳眉を逆立てて立ち上がる。

「私は楽しくなーい!」

「先輩~!」

しがみつく後輩を蹴散らしそうになったけど、それよりもなによりも、いきなり立ち上がった黒埼さんに、荷物みたいに肩に担ぎ上げられた。

「離せ熊!」

「離すかよ、酔っぱらい。とりあえずあんた村居さんの後輩?」

立ち上がった巨人を眺めて、彼女があんぐりと口を開けるのが見える。

うん。座って眺めたら、きっと黒埼さんはエベレストに見えることだろう。

「は、はい」

「そこの村居さんのコートとバック取って。今日のところはちゃんと送り届けるから。ついでに、そこのジャケットも取ってくれると助かる」

素直に私のバックとコートを差し出して、後輩はコクコク頷いて……。

とめてー! そこは助けてー!

だけど、黒埼さんはすでに歩きだしていて不安定に揺れるから、慌てて彼のベルトを掴む。

「今日のところはってなんですか!」

「今日のところは、だろ。いつか食っちゃうよ?」

く、食っちゃう……私は食われちゃうの!?

何も言えなくて、口をパクパクさせていたら、お店を出たところで肩から下ろされた。

あ。下ろしてくれるんだ。良かった。
さすがに私も肩に担がれたまま、駅まで晒し者にされるとか嫌だったし。

そう思っていたら、バサリとコートを肩にかけられた。

「とりあえず寒いから」

「あ、ありがとう」

コートを着ていると、黒埼さんもジャケットを羽織り、当然のようにまた私を担ぎ上げようとする。

「ま、待った! 担がなくていいから! 歩くから!」

「嫌だね。あんたに勝手にさせてたら、逃げ出しそうだし」

まぁ、逃げるでしょ。そんなの当たり前でしょ?

そう思って暴れかけたら、お姫様だっこをされた。
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