気になるパラドクス
それでも店舗に着くと、私は可愛いものにウキウキする。

やっぱりフロップ可愛い!

「見て見て、美波。フロップがマグの取っ手に座ってる!」

「ふーん」

「あ。ハンドタオルも可愛い。こっちはキッチングッズだ」

「へぇ~」

……えーと。

冷たい視線に、もじもじした。

「美波さん。シックの方を見てきてもいいですよ」

「ありがとう。またあとでね」

手を振りあって、二階に上がっていく美波を見送った。

可愛い見た目で、ちゃんと可愛いものも似合うのに……。
でも、趣味じゃないならしょうがないよね。

唇を尖らせていると、今日は他にお客さんもいなくて暇なのか、顔見知りの店員さんが近づいてきた。

「村居さんお久しぶりですー」

「お久しぶりです~。また新作増えてますね」

「デザイナーさんがどんどん作ってますから。店舗によって置くものも、ちょっと変わってきたんですよ」

デザイナーさんと聞いて、黒埼さんの顔が思い浮かんで、すぐさま首を振って打ち消した。

「意欲的なんですね」

愛想笑いしつつ呟くと、店員さんは苦笑して片手を振る。

「いえいえー。うちのデザイナーさんは、イライラした時の方がアイデア出てくるみたいです」

「……そうですか」

黒埼さんがイライラしているのは、一度しか見たことがないかな。

合コンに来た時くらい。

思えば、黒埼さんて飄々としてるか、笑ってるかだよね。

思いながら、ミリーのスマホカバーを見つけた。

「フロップのは無いんですか?」

何気なく聞いたら、店員さんに目を丸くされる。

「よく内輪の呼び名を知ってますね。フロップの方は今、本店から在庫を持ってきてもらってまし……」

店員さんの視線が、私の背後、かなり上を向いた。

……私の上?

慌てて振り向くと、驚いた顔の黒埼さんがそこにいた。
< 37 / 133 >

この作品をシェア

pagetop