気になるパラドクス
何なんだかなぁ……もう。

買ったスマホカバーを包装してもらって、受け取ってから振り返る。

振り返った間近に黒埼さんがいて、今度こそ困り果てた。

「あの。他にもお客さんがいたら困るでしょう?」

「今はいないけど」

呟いた瞬間、真理さんからボールペンが飛んできて、黒埼さんの鼻にバシンと命中する。

無言で鼻を押さえる黒埼さんと、真理さんの睨み合いの火花が見えた気がした。

「オーナーが営業妨害しない! そういうのは、どこかふたりきりでやってください」

それは困る!

「私が消えたら、私の友人が困ります!」

黒埼さんは鼻を押さえながら『はぁ~』と息を吐くと頷いて、私の手を掴んで二階に向かった。

何をするつもりだろう。

考えていたら、黒埼さんは美波を見つけ、私の手を引きながら近づく。

「すみません」

彼が声をかけると美波が振り返り、それからただでさえ大きい目を、なおら大きくして黒埼さんを見上げた。

美波と黒埼さんが並ぶと、確かにパパと子供みたいでちょっとおかしいけど……笑えない。

だって、きっと私と並んだらママと娘だもん。

「村居さん、借ります」

最初の衝撃が去ったのか、美波は黒埼さんと私を見て、眉を寄せる。

「噂のフロッグすてっぷの男?」

「たぶん、そう。俺はどんな噂か詳細は知らないけど」

「ならダメかな。美紅はこう見えて子ウサギちゃんだから」

え。私……子ウサギちゃん呼ばわりされちゃいました。

「いやー……子リスじゃねぇ? ぴょんぴょんっつーか、ちょこまか逃げ回るし」

子リスは……可愛い。

可愛いけど……。

「ふたりとも、どこに目をつけてるの」

こんなデカイ子リスがいてたまるか。

でも……子リスは小さくて、可愛くて、ちょっと欲張りなイメージだな。

「いやいや、性格的な話。村居さんの友達のイメージだと……」

黒埼さんが言いかけて、何を思ったのかパクンと口を閉じる。

しばらく考えてから、ちらっと店内を見回した。

「とりあえず、そこの事務所に行くだけだから」

指差した先はスタッフオンリーと書かれたドア。

黒埼さんは、今“何か”を飲み込んだ気がする。
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