気になるパラドクス
そして、今私は何故かフロッグすてっぷの店内の、スタッフルームにいた。

スタッフルームは三畳くらいのスペースで、事務的なデスクの上にシンプルなノートパソコンが乗っている。

……けど、そのまわりがバリエーションに飛んでいた。

フロップとミリー、それから見たこともない動物っぽいキャラクターのタイルが壁一面に貼ってある。

キラキラのミニシャンデリア風の電飾に、フロップが座っているガラスのランプ、大小さまざまなぬいぐるみに人形、マグカップに可愛いペンたち。

そして事務的な青いファイルに、ずいぶん派手にデコられたコーヒーメーカー。お花柄の椅子が二脚。

……普通のスタッフルームって、もっと簡素かと思っていたけど、ここは何かが違う。

お店の延長上で、しかも、お店よりごちゃごちゃしていて、何だかおもちゃ箱っぽい。

椅子に勝手に座った私に、黒埼さんはキャップの下から、何故か感心したような視線を向けてきた。

「意外すぎるなぁ」

「何がですか」

「違和感なくこの部屋に馴染んでるし、しかも素直についてきた」

言われた言葉にポカンとして、それから顔が熱くなった。

「だ、だって……」

「それで? またお前は人の事を無視し始めただろう」

そう言って仁王立ちしている姿は臨戦体勢のクマさん。

両手を上げて、目をつり上げて、グワ~とでも……実際は腕を組んでいるし、目は鋭いけど、いつも通り少したれ目だし、淡々と静かに佇んでいるけどさ?

「だって、もう企画も終盤だし」

呟くようにして言うと、黒埼さんは無言でいる。

確かに、黙って立っていると少し威圧的かも知れないな。でも、これって今はちょっとわざとっぽい。

「プロジェクトが終われば、会うこともないし……さ?」

「ほら本気にしてない」

ぶっきらぼうに言われて、目を丸くする。

本気にしてないって、なにが?

「黒埼さんは、目付きが気にならないってことと、身長が丁度いいってことと、フロップが好きなのが嬉しいって言っただけだもん」

「俺は……!」

一瞬だけ激高しかけて、大きく息を吐き出した。
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