気になるパラドクス
「俺は、ちゃんと結婚も考えるって言った」

「そんなのを考える間柄でもないでしょ?」

お互いにキッと睨み合う。

ま、負けないんだから!

「付き合ってない男とはそんな関係ならないって言われて、付き合ってもいいって言った」

「マーキングとも言ってた」

「そりゃ言葉のあやだろう」

ガタンと音を鳴らしながら、花柄の椅子を動かし、黒埼さんは私の目の前に座る。

「俺は嫌われてるか?」

……嫌っては、いないけど。

真っ直ぐな目に、視線を逸らす。

「お、男の人って、移り気だし。好きだとか言っても、小さい女の子にいくじゃない」

「いや、だからな? 俺は小さい女は……」

言いかけて、キャップの鍔を後ろにまわした。

「……前の男が原因か?」

原因と言えば、原因なのかもしれないけど。

「付き合っていてもイメージと違うって振られてきたし、背の高い女は嫌だって言われたし、結果単なるつまみ食いだったし」

ツンツンつり目で背が高い女が、キャラクター好きだとひくらしい。

自分より背が高い女は、恋愛対象にならなくても、女には変わりないから男の人は抱けるらしいし。

そして何故か、あっさり付き合っても、あっさり別れられると思われるらしい。

そんなわけはないのに、そんな風に扱われると、そろそろ諦めもついてくる。

「諦めるの。だから構わないで欲しいの」

「諦めるなよ。馬鹿だなお前は」

「賢いと思う。傷つかなくて済むもん」

黒埼さんは最初眉をひそめ、それから困ったように鼻の頭をかくと、首を傾げた。

「……そんな気が全くしないんだが、もしかして、俺は好かれてる?」

好かれていたとしても、それを堂々と言う人は少ないんじゃーないかな?

とりあえず笑顔を返して……ひきつった。

みるみる身体全体が熱くなってくるけど、とにかく返事をしようとして……何を言えばいいのか。

「傷つきたくないって言うのは、普通にある自衛本能だな。俺を好きになると傷つきそうか?」

微笑みながら言われて、考えてみた。
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