気になるパラドクス
「今の話の流れから、どうして私が黒埼さんに連絡先を教えるの」

「ん? 教えてほしいから」

だから、人の話を聞いてるかーい?
聞いていないって言うか、聞き流してるよね?

インパクトのある言葉じゃないと通じないのかな。

考えながら、言葉を選んでいく。

「……黒埼さんが、とりあえず真剣に私を気に入ってくれたのはわかった。けど、それって私が真剣に磯村くん気に入っているのと一緒じゃない」

「……磯村さんて、嫁さんいるよ?」

キョトンとする黒埼さんに、クワッと口を開けた。

「別に道ならぬ恋に身悶えするつもりはないから! 後輩として! たまに思いきり突き放されるけど、あの子は基本的に面倒見がいいし!」

黒埼さんは何を思ったのか、無言で私の両手を掴むと、親指で手の甲を撫で始める。

繋がった手を、二人で黙って見つめた。

……何だか、優しくさわさわと触れるか触れないか……。

そんな風に撫でられて、少し下がった体温が、また徐々に上がってくる。

しばらくそうしながら、落ちる沈黙。

何か、真剣に考えているみたいだけど……。

「黒埼さ……?」

「……わかった。村居さんは、やっぱり乙女だよな」

「へ……?」

目を丸くすると、黒埼さんは優しく微笑んで、ゆっくりと顔を上げる。

「村居さんって、“好き”って言われたり、“付き合おう”って言われた男と付き合って来ただろ?」

……そうだけど。

「そんな簡単なもんじゃないんだけどなー」

「でも、お世辞なら、どんな男でも言うじゃない。その言葉なら、ハッキリしててわかりやす……」

「好きなんだけど」

遮られて、聞こえた言葉に絶句した。
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