気になるパラドクス
す、好きって言った?

「ちょっと衝撃的だったよね。初対面で殴られるって」

どこか清々しいくらいの彼に、眉を寄せる。

「……だって」

あなたいきなり“キスしやすそう”的な事を言っていなかった?
そんな失礼にも取れる発言に問題があると思うんだ。

だけど、気にした様子もなく、ひとりで勝手に頷いているし。

「ちょっとからかうと過敏に反応して面白いし、俺のデザイン好きらしいし、背もちょうどいいし、抱き心地もよかったし」

最後のいらない、最後の。

「自分の魅せ方わかってないし、冷たそうなイメージにハマろうとして、全然ハマってないし」

「ひ、ひねくれてるだけよ!」

「そう言ってるだけで、すぐ赤くなるしなー? 俺がいろいろしたら、どこまで赤くなるんだろう、とか思うけど無視するし。あれが一番辛い」

……辛い?

「辛いってことは、かまってほしくてしょうがないって事だし、しょうがないって事は……」

覗き込まれて眉を八の字に下げると、可笑しそうに笑われた。

「好きって事だろ?」

「聞かないでください……」

思わず唇を尖らせると、掴んでいた手をにぎにぎと握られる。

「まぁ、いろいろあったんだろうから、すぐにどうこうって難しいかもしれないけど? だからって、無視するのはやめてほしい」

「でも。すぐいなくなるじゃない」

「だから、連絡先聞いてるだろう。まぁ、さっきの会計でポイントカード使ってたし。フルネームわかったから、調べられるけど」

言いながら、黒埼さんはニヤリと笑った。

「あれ。それならマンションの号室もわかるかな。勝手に調べていい?」

「お伝えします!」

バックから慌ててスマホを取り出すと、どうしたことか爆笑された。
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