気になるパラドクス
「ああ。それはバレたんだ」

「……バレますよね」

……何。私は口説かれていたの? 今のが? 今のは追い詰められていただけじゃん?

でも……そうだね。
ちょっとビックリしたけど、落ち着けばどうにかできそう。

するりと壁際から抜け出して、急いで磯村くんの隣に立つと、表情を取り繕ってから黒埼さんを振り返る。

「業務がありますから戻ります。黒埼さんのお顔は覚えましたから、間違っても不審者扱いにはなりませんので安心してください。では」

ペコリと頭を下げると、カツカツと廊下を歩いてエレベーターのボタンを押す。

そして、エレベーターに乗り込みながら考える。

黒埼さんて、フロッグすてっぷの何をしている人か聞き忘れた……。

けど、まぁいいか。どうせ接点なんてそんなにないものね。

部署に戻るといつも通りに仕事を終えて、それから会社を後にする。

……それからじわじわと、黒埼さんの事を考えた。

あれが口説いていたのなら、初対面の女を口説くってどんな奴なんだろう。

とりあえず、森のクマさんと勝手にあだ名をつけながら、その日の事は忘れることに決めた。









< 5 / 133 >

この作品をシェア

pagetop