気になるパラドクス
黒埼さんて……あの森のクマさん?
クマさんがフロッグすてっぷのデザイナー?
あの自社ブランドの可愛いデザイナーを、あの森のクマさんが……。
「……村居さん。口からお茶が……」
磯村くんに言われて口を閉じると、漏れたお茶を手で拭った。
とにかく……。
「く、黒埼さんのご機嫌が、どうして私で直るのよ」
「いや、一発で気に入ったみたいですし、男なんて単純なんですから」
……男のあなたがそんなことを言うんじゃないよ。
ぼんやりしていたら、今度は磯村くんが両手を合わせて拝んできた。
「今日だけでも……ダメですか?」
「いきなりは無理よ……まず、課長に相談する」
「ですよねー。では、待ってます」
とにかく磯村を返し、ぷんぷんと怒っている部下を宥めてから、課長のところに行って交渉する。
もちろんクマさんが“私を一発で気に入った”と言う話は抜きにして、一般事務員には荷が重そうなので……と、進言して許可をもらった。
クマさんがどんな人か知らない……いや、変わり者だとは思ったけど、うちの事務員は優秀よ。
それを追い返すからには、それ相応の対応をしてあげようじゃないの。
ノートパソコンと筆記用具、それから精神安定剤代わりにキャラメルを持って、細々と指示を出してから部署を後にする。
エレベーターホールに着くと、ほっとしたような磯村くんが待っていてくれた。
「先に会議室に戻っていても良かったのに、磯村くんも律儀だね」
キョトンとして呟くと、磯村くんは片手を振ってエレベーターのボタンを押す。
「村居さん、どの会議室かわからないでしょう?」
「営業部の情報網を甘く見ちゃだめよー。どのセクションがどの会議室を使っているかくらい、朝一でわかってます」
「では、今日のミーティングの内容は?」
「それはさすがに……と、言いたいところだけど、今日のミーティングの資料をまとめたのは私だから、大まかには理解してます」
自信満々に言うよー? 伊達に主任やってるわけじゃないからね。
せめて営業の所在くらい把握してなきゃ、急に顧客から連絡あった時に困るし、いきなり資料請求してくる子達だっているんだから、業務内容の把握も必須よ。
「ちなみに村居さん。黒埼さんに口説かれても、次は助けませんからね」
……そこは助けようよ、磯村くん。
クマさんがフロッグすてっぷのデザイナー?
あの自社ブランドの可愛いデザイナーを、あの森のクマさんが……。
「……村居さん。口からお茶が……」
磯村くんに言われて口を閉じると、漏れたお茶を手で拭った。
とにかく……。
「く、黒埼さんのご機嫌が、どうして私で直るのよ」
「いや、一発で気に入ったみたいですし、男なんて単純なんですから」
……男のあなたがそんなことを言うんじゃないよ。
ぼんやりしていたら、今度は磯村くんが両手を合わせて拝んできた。
「今日だけでも……ダメですか?」
「いきなりは無理よ……まず、課長に相談する」
「ですよねー。では、待ってます」
とにかく磯村を返し、ぷんぷんと怒っている部下を宥めてから、課長のところに行って交渉する。
もちろんクマさんが“私を一発で気に入った”と言う話は抜きにして、一般事務員には荷が重そうなので……と、進言して許可をもらった。
クマさんがどんな人か知らない……いや、変わり者だとは思ったけど、うちの事務員は優秀よ。
それを追い返すからには、それ相応の対応をしてあげようじゃないの。
ノートパソコンと筆記用具、それから精神安定剤代わりにキャラメルを持って、細々と指示を出してから部署を後にする。
エレベーターホールに着くと、ほっとしたような磯村くんが待っていてくれた。
「先に会議室に戻っていても良かったのに、磯村くんも律儀だね」
キョトンとして呟くと、磯村くんは片手を振ってエレベーターのボタンを押す。
「村居さん、どの会議室かわからないでしょう?」
「営業部の情報網を甘く見ちゃだめよー。どのセクションがどの会議室を使っているかくらい、朝一でわかってます」
「では、今日のミーティングの内容は?」
「それはさすがに……と、言いたいところだけど、今日のミーティングの資料をまとめたのは私だから、大まかには理解してます」
自信満々に言うよー? 伊達に主任やってるわけじゃないからね。
せめて営業の所在くらい把握してなきゃ、急に顧客から連絡あった時に困るし、いきなり資料請求してくる子達だっているんだから、業務内容の把握も必須よ。
「ちなみに村居さん。黒埼さんに口説かれても、次は助けませんからね」
……そこは助けようよ、磯村くん。