気になるパラドクス
ちょっと面倒くさいなと思いながら会議室に到着すると、ノックをしてすぐにドアを開ける。

真っ先に視界に入ったのは、不機嫌そうな顔をしているクマさ……黒埼さんの表情だった。

「遅くなりました」

磯村くんが空いている席を示し、そこに座るとテキパキとノートパソコンを立ち上げて筆記用具を用意する。

顔をあげると、驚いたようなクマ……黒埼さんと目が合った。

ぽろっと口から出たらマズイし、呼び方は直さなきゃ……と思っていたら、指を差される。

「村居さん主任じゃなかったか?」

「私より古参の事務員はいません」

「え。村居さんいくつなわけ?」

……女に年齢聞くんじゃない。

ジロリと睨んだら、微かに大熊は顔を赤らめた。

「悪い。関係ないですね」

「では、再開しますね」

企画室の人が何事も無かったかのように会話を引き継いで、ミーティングを始めだす。

今回のミーティングメンバーは、フロッグすてっぷの黒埼さん、企画室の山本さんに、営業部は磯村くん。

……まぁ、初期ミーティングとしては定番のメンバーよね。

さて、私は書記を任されてるわけだろうから、彼らの話をカタカタ文章化していく。
こういうのは、秘書課の人の方が得意なんだけど。
口述筆記や速記って、営業部の子で何人できたかなぁ。

驚いたことにデザイナーであるらしい黒埼さんが、話の途中スケッチブックを取り出して、なかなか乙女チックな椅子のイラストを描いた。

描いた……けど、私の視線はスケッチブックではなく、彼の持つ色鉛筆に向かう。

なんだろ、あれ鉛筆キャップだよね?

今時、小学生でも鉛筆にキャップはつけないかもしれないけど、指人形みたいなフロッグすてっぷの代表的……あの可愛らしいカエルさんが、色鉛筆につけられていた。

可愛い。なにあれ欲しい。
売ってたかな? 見たことないよね。ないと思う……。

そんな事を考えていたから、実は皆が無言になって、黒埼さんが面白おかしそうに、鉛筆をふらふら動かしていた事に気がつくのが遅れた。
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