気になるパラドクス
「作業……終わったの?」

「もともとの製品の色変えるくらいだし。今日の打ち合わせでほとんど決めていたし」

「へ、へぇ~」

視線をずらすと、キシッと音がして、黒埼さんが足を組んだ足元が見えた。

「で、何かあったのか?」

「や。別に何かあったわけじゃあ」

あった、と言えばあったわけだけど、それをどうこうって言うか、なんて言うか。
あ。でも、磯村くんと約束していたことがあった。

「と、時任さんは、単なる先輩だから!」

だから気にする必要はないから。そう言おうとしたら……。

「……突然だなぁ。なんだ、磯村さんに何か言われたか?」

ぱっと見ると、黒埼さんは相変わらず飄々として、青いマグカップでココアを飲んでいた。

「だいぶ俺も突っ込んで聞いたからなぁ。って、そんなこと、何か言われたんなら、お前も磯村さんとかなり仲がいいんだ?」

えーと。うん。

「彼は後輩だし。後輩の中で唯一最初から怖がらないでくれた子だったし」

私の場合、怖がらないでくれる子って言うのはやっぱり貴重だ。

なんの予備知識もない段階で、すんなり近づいて来る人は少ない。

「俺はともかく、お前が怖がられんの?」

「見た目で怖がられるの。背は高いし目付き怖いし」

「怖くはないだろー。こんなに中身はマゾなのに」

……今、なんて言った?

「マゾ……?」

マゾってあれだよね。Mとか、そういうことだよね?

「わ、私にそんな、虐げられて喜ぶ趣味はない!」

「や~? どうだか。まわりに合わせようって頑張る奴は、だいたいMだろ? 傷ついても傷ついたとは言わずに、ひとりで我慢してる奴もMだ」

「極論過ぎない?」

「過ぎない」

断言されても困るー!
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