気になるパラドクス
「ほとんどは磯村さんに聞いたよ。時任さんって人が、お前にささやか過ぎるアピールで数年全く気づかれてなかったって話も、お前の元カレと俺がちょっと睨み合った事が噂になったってことも」

あ……そうなんだ。磯村くんはだいたい正確に察してくれてるんだ。

でも、時任さんて、数年前から何かしてきていたかな?
お菓子を貰うのはいつものことだし、気にもとめていなかったわけなんだけど……。

考えてみたら、私は見た目から“甘いもの好き”には見られないから、突き詰めてみればおかしな事だと気づくべきだったのか。

やっぱり私は鈍感なのかな?

「……で、その他には何があった」

「え?」

急に物思いからさめて、まじまじと黒埼さんを見る。

「一応、お前は否定していたわけなんだから、それは今更だろ? いきなり抱きついてくるなんて、らしくない行動だと思うんだけど」

あー……。えーと。
確かに“私らしからぬ行動”だと、自分でも思うんだけど。

「ごめん」

「いや。いきなり謝られても困るし。何が原因でどうして俺に謝るのかをキッチリ説明しろ」

説明しろって言われても、ちょっと困惑してしまうけど。

「私、こう見えても女なので」

ボソボソ呟くと、黒埼さんの表情が『はぁ?』とでも言いたそうな顔になった。

「ちょっと、実感したかったのかなぁ……なんて?」

「いや。疑問系で言われても解読できない。こう見えても何も、俺は最初から女にしか見えてないけど」

「まぁ、そうなんだけど……私も女以外の何かになったつもりもないんだけどさ」

ああ、何だかとっても言いずらい。

「噂が派生しちゃって。私は見た目こんなだから、他の人から男女とかオカマだとか、いろんな人によく言われるわけなんだけど」

「見た目だけはサバサバしてるように見えるからなぁ」

どこか呆れたように言われて、マグカップをテーブルに置くと両手で顔を隠す。

「確かに35歳だし、20代の子からするとおばさんだし、オカマって言われても仕方がないんだけど! 黒埼さんがおっさんでホモって言われるのは許せなくて! でも言い返せなくて八つ当たりしかできなくて! こんな自分が嫌なの!」

一気に言ってしまってから、言った言葉に青ざめればいいのか、赤くなればいいのかわからなくなって顔を伏せて半泣きになった。
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