気になるパラドクス
「なんとなく付き合い始めてくれた割りには、ちゃんと俺の事を思ってくれてるんだから」

それは考えるでしょ。
付き合い始めたって事は、黒埼さんは私の彼氏なんだから。
彼氏と言うことは、黒埼さんの全ては私の事でもある。

私の……?

ちょっと待って。やだ。めちゃくちゃ独占欲丸出しじゃない?
私のって何よ。私のって。

え。何……そういうこと? 私のって思ったから抱きついたのかな?
だいたい黒埼さんはモノじゃないのに!

待ってよ。モノじゃないのに、いきなりこの考えはどこから出てきた。

わ、私ってこんな恥ずかしいこと考える人だった?
そんなまさか。違う、違っていたはずなのよ。

考えながら、どこかからかうような表情を見せる黒埼さんを凝視する。

「まぁ、俺がちゃんと女が好きな男で、お前が紛れもない女だって実感させる事をしてもいいんだけど」

低い声で囁いて、黒埼さんの微笑みが妖しく変化した。

「え……?」

「どうせなら、クリスマスまで待とうかなって思って、今はなんの用意もしてないし」

急にお腹をつつかれて瞬きすると、彼は妖しい笑みを浮かべたままで片方の眉を上げた。

「仕込んじゃってもいいけど、先にするべき事をしてからにしよう」

し、仕込んじゃってもって、あ、あなた何を企んで……。

「先にやっぱり、親に会わせてからかなーって思ってる。35歳なら、早いに越したことは無さそうだし、やっぱり今日中に親父に会ってもらおうかな」

「ちょ……っ。どっからそんな発想が生まれたの?」

「先に生んだのお前だろ。俺はお前と結婚を考えるって言った」

あれかしら、かなり前に私が言った一般論の言い合いの事?
あれはちゃんと一般的にって言ったじゃない。ちゃんと……。

あれ? ちゃんと否定したかな?
したような気もするし、うやむやになった気もする。

けど……。

「お前の実家どこ? 先に俺が挨拶しに行くべきだよな。スーツ苦手だけど、お前ってネクタイ結べる?」

私も待てだけど、あなたも待って?

いろんな事が早すぎて、話についていけないよ!

「とりあえず、クリスマスまでのお楽しみにしようか?」

だから待って!

そんな際どいこと、宣言されても頷けないから!

……やっぱり、森のクマさんには人間の言葉が通じにくいのかな?










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