気になるパラドクス

4

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クリスマスまで残り数日。

カレンダーを見ながら、盛大に溜め息を吐いたら、部下のひとりが不機嫌そうに部署に戻ってきた。

「なんなの四課の女!」

ファイルをバスンとデスクに置いて、彼女はぷりぷり怒っている。

「何かあった?」

声をかけると、彼女はキッと私を振り返り、つかつかと近づいてきた。

「村居主任も村居主任です!」

は? 何が? 私はあなたを怒らせるような、何をしたと言うの?

「どーして言ってくれないんですか。四課の女ども、村居主任のことを無茶苦茶悪辣に言ってるんですよ!」

あ……。なんとなくわかった。
悪質な方の噂話は四課経由なのか。だとするとロッカールームの彼女らも四課の子達だったんだな。

「何か言われたー?」

「塚原さんが四課の子を取っ捕まえて、叱っている場面に出くわしたんです」

それはそれは……ありがとうございます、塚原さん。

「確かに、私は黒埼さん嫌いですけど、村居主任選ぶんだから見る目はあると思ってます。最近の村居主任は楽しそうだし、いいお付き合いしてるんだろうなって思うし。それを四課の女どもときたら……金持ち社長ひっかけた悪女扱いだし!」

「ほ~。今時もそういうのは悪女って言うんだねー?」

「そこ感心しないで下さい!」

バン!と、デスクを叩かれて瞬きした。

「うちの村居主任は乙女なんですって言ったら、バカにするように笑ったんですよ!」

「え……」

いや、断言されたら困るんだけど。
それはそれで、けっこう恥ずかしいんだけど。

「あ、あの。落ち着いて?」

「だいたい黒埼さんはデカイですけどお腹が出てるオヤジじゃないし。全然お金持ってるように見えないし。八つ当たりされたけど、私もふてぶてしかったのは確かだし。その後は普通に接してくれてるし。性格は悪くないと思ってます!」

「あ、そう?」

どうしたものだろう。何だかけなしているのか褒めているのか、よくわからないけど、彼女なりに黒埼さんを認めてるってことでいいのかな?

彼女は勢いよく鼻から息を吐き出して、腰に手を置いた。

「よく知りもしないで、勝手な事ばかり言ってるから、もうほんとにムカついて。そしたら塚原さんが」

「塚原さんが?」

「デコピンついでに『自分に男がいないからって、妬むんじゃないわよ』って言ったら、走り去っていきました」

以上、報告は終わり?
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