気になるパラドクス
ポカンとしていたらクスクス笑いがまわりから起こって、彼女たちの視線がまた私の頭上高くを見上げている。

あ、これは……。
そう思った瞬間に、頭にズシリとのしかかる重量。

「いい部下もってんだなぁ」

とてつもなーく、聞き覚えのある呑気な声に頭上を睨む。

「重いんですけど……」

「わざとだ、気にするな」

気になるわ。

払いのけて振り返ると、やっぱり黒埼さんがそこにいて、その後ろで磯村くんがお腹を抱えて笑っている。

「ミーティングですか?」

「そう。ミーティング。何だかお前が責められてるように見えたから様子見にきた」

「ちょ~っと遅かったみたいですね」

「そのようだ」

言いつつも、また三つ編みをほどかれて、テキパキとお団子にまとめると、そのまま何も言わずに磯村くんと営業部を出ていった。

「……今日はうなじ萌えか」

ポツリと呟くと、腰に手を置いたままの後輩が、どこか悔しそうに黒埼さんが去っていったドアを睨んでいる。

「どうかした?」

「……小声で黒埼さんにサンキューって言われました。ムカつきます」

それってムカつくことなの?

「なんなんですか、村居主任のナイト気取りなんですか、あの人」

ナ、ナイト!? どう考えても、黒埼さんは騎士って言うか、戦士ってイメージなんだけど?
何だか彼が、マント羽織って剣を持っている姿が想像できない。

「この間もそうでしたが、さりげなーく村居さん助けに来ますもんねー」

他の子達からも声をかけられて、顔を赤らめる。

「と、とにかく、仕事戻ろう。あなたも席に戻って」

「本当、村居主任って慣れてない事をされると照れますよね」

「そ、そう?」

「黒埼さんと関わるようになってから気がつきました。それまでは武士だと思っていました」

……武士はどうなの。

「私、剣道なんてやったことないけど……」

「違いますよ。礼儀正しく、姿勢も正しく、何だか清く美しくをモットーにしてるんだと思っていました」

えええ? そんなものモットーにしたつもりはないよ?
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