気になるパラドクス
表に出ると、途端に冷たい風が吹いてきて思わず身を縮めて目を瞑る。

「さむ……っ」

「お疲れ様」

いきなり背後から抱きつかれて、目を見開いた。

「黒埼さん! ここは社員入口前だから!」

「まぁ、そうだな。気にするな」

「気にするわ!」

肘でぐぐっと押し退けると、黒埼さんは笑いながら離れてくれる。

「珍しいな、ジーパンだ」

確かにコートの下に、今日はセーターとジーパン。それにロングブーツを合わせているけど。

「私だって、たまにはカジュアルな格好もするよ」

「この格好だと、下ろしていた方が可愛いかな」

何が? と、思った瞬間にお団子をほどかれた。
バサッと落ちてきた髪をぐしゃぐしゃにされながら、無言で黒埼さんを見上げる。

……この人は、どうしてこう、気分で人の髪型を変えるんだろうか。
でも“自分がしたいよう”にするんだろうな。

されるがままにしていたら、社員入口からたくさんの人が出て来て、その中に、塚原さんを見つけて途端に慌てた。

「く、黒埼さん。大丈夫、大丈夫だから」

「何が?」

いや、確かに何が? だろうけど、人前はちょっと問題あるよ。どうか、塚原さんが気がつきませんように!

そうは言っても、私たちが並んで目立たないはずもなく……。

「あらー……噂通りのビッグカップル発見しちゃったわー」

どうせビッグカップルですー!
キッと振り返ると、黒埼さんがポンポンと頭を叩く。

「知り合い?」

「今は三課ですが、私の先輩です」

塚原さんは遠慮なく黒埼さんを眺めてからクスッと笑って……。

「どうみても、小太りの中年エロ親父社長には見えないわね?」

さすがのコメントに私はめまいがするし、黒埼さんもポカンとして……それから吹き出した。
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