気になるパラドクス
「何? 俺って小太りの中年エロ親父って噂されてるわけですか?」

「社長のフレーズから連想できる悪口ワードなら、それがマストじゃなかしら?」

塚原さんが何か毒を含みながらも、ちらっと背後の顔を赤くして固まっている女子社員を見る。

「それはまた、想像力に乏しい人間の想像ですね。ハゲにチビが加わったら最強だろうに」

どこか意地悪そうに笑いながら、黒埼さんも塚原さんに便乗した。

……まぁ、実物の黒埼さんはデカイし、太ってるどころか筋肉質だし、ハゲていないし……。

「まぁ、20代の小娘からすると中年親父だし、男なんでエロいけど、普通はそんなもんですよね」

ブツブツ呟いている黒埼さんは、言葉がいろいろ余計な気もするけど。

「これからデート?」

塚原さんが楽しそうに私を覗き込み、黒埼さんと同時に頷くとニッコリと微笑んだ。

「うちは女子会なの。今度はきちんと紹介してちょうだいね」

軽く手を振りながら、固まっている女子社員を促して去っていく。

黒埼さんはそれを見送り、私を見下ろした。

「ずいぶんハッキリ言う先輩だな」

「歯に衣を着せない人なの。怒る時も半端ないから、怖かったものよ」

「三課は接点ないからなー。うちはずっと一課としか取引上付き合いないし……今日は電車でいいか?」

言いながら駅に向かって歩き始める。

「今日は最初から飲んで帰るつもりだったの?」

それならそれで、申し訳ないかも知れないけど。
慌てて追いついてジャケットを掴むと、肩越しに振り返った黒埼さんが少し困ったような顔をした。

「いや。ちょっと違う予定だったから、気にしなくても」

「本当に?」

「白状すると、実家に連れていこうかな……とか思っていたわけなんだけど」

……はい?
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