気になるパラドクス
頭の中が真っ白になって、それから猛烈に慌てた。

「ちょっとまってよ、この間も思わなかったわけじゃないけど、いろいろと早すぎると思うのよ」

「美紅はそう言うと思ったけど、早すぎることはないだろ。俺は36だし、お前は35だし、結婚して、子供産んで、遊びたい盛りの子供の相手できる年齢なんて限られてだろうし」

おおぅ。何だかいろいろと考えてる。

「例えば、来年子供が生まれたら、子供が小学生になる頃には40代だろ? 中学生になれば50代、大学まで考えると、会社もうまく運用しないとなぁとか、そんな事も考えるよな」

とーっても、真面目に語っている。
言っていることは、確かに正論なのよ。間違ってもいないと思うし、ちゃんとしっかり考えているんだと、逆に感心もするんだけど……。

するけど、根本的に何かが違うような気がしないでもない。

「あのね黒埼さん。私たち、付き合い始めたばかりだって気づいてる?」

「うん。未だにキスしかしてない清い関係だってことにも気づいてる」

うん。それは恥ずかしいから、横に置いておくとしてもよ?
よし、付き合おう! って、感じで付き合い始めたわけでもないし、黒埼さんいわく“なんとなく”付き合い始めた感がないわけじゃないんだ。

だからってわけじゃないけど、その……。

「実家にってことは、ご挨拶なんでしょうけど……結婚とかって、付き合っていろいろあって、その末のお話じゃない?」

「お伽噺なら、結婚してめでたしめでたしかもしれないが、実際は違うだろ」

そこそこ付き合ったふたりが結婚するのは、一種の結末のような気がするんだけど。

考え込むと、黒埼さんはふっと笑って私の頭を抱えると引き寄せた。

「結婚をゴールインなんて言う奴もいるけど、通過点にしか過ぎないだろ」

「通過点……?」

「付き合っていろいろあってから結婚したって、その後もいろいろあるんだろうし。無いわけがないし」

それは、そうだろうけど。
結婚して、波風たたない平穏で穏やかな生活が続くなら、離婚する夫婦はいないだろうし。

だ、だからって。

「確か美紅が“背の高い女と男は結婚しない”とか、なんか言っていた時かなー。俺もその時まではそこまで考えてなかったけど」

その時の思い出すように呟いて、黒埼さんは小さく笑った。
< 92 / 133 >

この作品をシェア

pagetop