一目惚れの片想い
鈴音さんが指示を出してから

すぐだった

大畠さんに連れられた春陽

春陽の首には、ナイフが突きつけてあった


「貴方のせいで、春陽が死ぬわよ?」


耳元で呟かれ、目の前の机に契約書


「娘になれないなら、人形にでもなって貰いましょう
断れば、湊に隠し子がいるって、週刊誌にバラす
会社がなくなれば、吉岡君も大変ね?」


私に選択肢はなかった

横に置かれたペンを手にした


「奏!!ダメ!!僕は、大丈夫だから!!」


春陽が泣いてるのなんて、見たくない


「春陽、私は鈴音さんの娘
自分の意思で、これにサインをする」


「ダメだよ!!奏!!ダメーーー」



サインしてペンを置いた



「どうしたらいい?」

「貴方は、私の娘
女優の血が流れてるのよ
記憶が戻った振りをして、私のところへ
いらっしゃい」

「わかった、春陽を解放して」




私と鈴音さんの会話は、春陽に聞こえてない


「春陽」

「奏…ごめんなさい
僕の為に…ごめんなさい」


春陽が泣いてる


「春陽、ごめんなさい
泣かないで?私は、自分の意思で鈴音さんを選んだんだよ!?記憶も戻ったの!」

「本当!?」

「うん!だから、心配しないで!!
私は、大丈夫だから!!」



春陽とスタジオを出て、家に帰る


玲音くんが帰って来るまでに


逃げないと


見透かされてしまう


バタバタと荷作りをした


春陽が「奏が出て行っちゃう」って連絡してたから

部屋を出る前に玲音くんと湊さんが来た


「サインしたのか?」

「そうよ!私、会社員とか向いてないもの
モデルやってる方が、楽しいから」

「だからって、鈴音のところに行くなんて」

「娘なんだから、当然じゃないの?」


冷静に、平静装う


私は、右手の薬指から

リングを外した


「私みたいな娘は、いらないんでしょう?」


湊さんの胸ポケットにリングを入れて

部屋を出る


これは、鈴音さんに聞いていた



私は、湊さんにそう言われて

記憶をなくしたんだって

本当かな?って疑っていたけど


湊さんの表情を見て、確信した


私は、いらなかったんだ






呼んでおいたタクシーに乗り

鈴音さんからもらった住所を見せた


タクシーの中で、あの名刺入れを握る



田中さん… 



怖いよ










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