禁断の部屋
だけど彼の前ではけっして怯えた素振りは見せないわ。だってそんな姿を見せたら、きっと彼は面白がってわたしをさらなる恐怖に突き落とすかもしれないもの。
心に狂気を宿している人間には弱いところを見せてはいけないと思うから……。
だけどおかしいのよね、彼。わたしを手に掛けようとする素振りをまったく見せないの。
これって、わたしの度胸を試しているっていうことなのかしら。
それとも、彼は過去に犯してしまった過ちから改心したのかもしれない。
ひょっとして噂はただの噂で、彼は真っ当な人間だということなのかしら。
よくわからないけれどけっして警戒心は解いたりはせず、リュシアンと過ごすようになって一週間が経ったある日のこと――。
「明日から大切な用があって、この屋敷を留守にする。これは屋敷の鍵だ。この屋敷内どこでも好きに使うといい。だが、いいか? この小さな鍵の部屋にだけは入るな」