ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
敬太は完全にナニカの存在を信じていた。
敬太だけじゃなく、うちのクラスの男子の大半も信じていて、女子は半信半疑と言った感じ。
お化けの呼び名はいつの間にか『ナニカ』で定着して、その話題はすぐに他クラスにも広まり、昨日のお昼休みが終わる頃には全校生徒が知ったんじゃないかというほど広がった。
2年生フロアの女子トイレは、ナニカの痕跡を見に集まった生徒達でごった返し、先生達に『騒ぎを起こした奴は誰だ!』と言われて、私と敬太が怒られる羽目になった。
私は嘘をついた。
だから怒られても仕方ないんだけど、敬太まで巻き込んで申し訳ない気持ちになってしまう。
「敬太、ごめんね……」
そう言って謝ると、敬太は不思議そうな顔をした。
「何で霞が謝るんだよ。霞はナニカに遭遇しただけで、悪いことなんてしてねーだろ。
悪いのは、ナニカを信じない先生達だ。
生徒の中にも信じてない奴もいるけど、何で信じねーかな。
霞はハッキリ見てるし、痕跡だって残ってたのにな」