ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
絵留はいなくなった。
私の望み通り、ナニカに殺されて消えてしまった。
そのことにさっきまで喜んでいたはずなのに、今の私の心に喜びはカケラも残されていなかった。
悲しみに暮れる敬太の姿を見て、罪悪感が津波のように押し寄せてきた。
私は別に、真斗まで消したかった訳じゃないんだよ……。
自分の心を守ろうとして心に言い訳してみるけれど、どうしても私が悪いのだという思いから抜け出せない。
真斗を殺したのは……私かも……。
敬太から親友を奪い、悲しませているのは私なのかも……。
よく考えたら絵留だって、死ななきゃならないほどの悪さをしていない。
私の醜い嫉妬から、殺したいほど憎いと思ってしまっただけで……。
やっと我に返って正常に働き始めた心では、この現実を受け止めきれなかった。
胸が痛くて苦しくて、呼吸が上手くできない。
深呼吸しようと試みるけれど、吸っていいのか吐いていいのか、それさえも分からず苦しさが急速に増していた。
敬太の姿を見るから余計に苦しいんだと思い、目をそらして後ろを向いた。
後ろには小石の地面が続いた数メートル先に、暗い林が広がっている。
そこに……ナニカの姿を見てしまった。