ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
木々に隠れるようにしてジッとしているナニカは、私が最後に見たときと違っていた。
桜井先生の目と口。
飯塚先輩の鼻。
そして……小さな耳がひとつ、鼻の右側に前後を逆にして付いていた。
耳たぶにはピンクの小さな石をはめ込んだ、銀色のオープンハートの揺れるイヤリング。
絵留の耳だ。間違いない。
そう確信した私とナニカの目が合った。
ナニカは桜井先生の口を使って、不気味に笑う。
まるで『褒めてよ』と言いたげに。
サアッと音を立てて血の気が引いていくのを自覚していた。
それと同時に目の前が暗くなり、立っていられなくなる。
ふらついた体は横向きに倒れて行き、それと同時に背後から「不明者2名発見!心肺停止状態!」と誰かの大声が聞こえた。
私の体はそのまま倒れて、小石の地面に強く打ち付けられた。
痛い……体よりも、心が……。
痛みと苦しさで意識が遠のいていく。
雲の切れ間に、青白い月が顔を覗かせていた。
意識が途絶える寸前に見たのは、月光を浴びてキラリと輝く、絵留の揺れるピアスだったーーーー。