ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
私はシャープペンシルを机に置いて立ち上がり、ベッドに仰向けに寝転んだ。
『大丈夫だよ』と言ったけれど、本当は息をするのも辛いほど、心の中が痛かった。
目をつむると浮かんでくるのは、憔悴しきった敬太の顔。
私はとんでもないことをしてしまったのだと、罪の重さを自覚して、気持ちはどん底に落ちたまま這い上がることができずにいた。
キャンプの日……絵留と真斗は死んだ。
死因は溺死。絵留の左耳はちぎり取られたようになくなっていて、真斗に外傷はなし。
絵留の耳については謎が残されていたものの、ふたりの死は事故として処理されてしまった。
あの後、私は意識を失って病院に運ばれたので自分で見聞きしていないが、大変だったんだよと、梨沙と琴美が電話で教えてくれた。
何があったのかと警察に問いただされ、梨沙たちはナニカに襲われたことを説明した。
でも、嘘をつくなと叱られたらしい。
大人たちはナニカの存在を信じない。
そして、夏休みに浮かれた高校生がキャンプ場の湖で遊んでいるうちに溺れてしまったという、水難事故にされてしまった。