ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
それを却下したのは、私じゃなくて敬太。
ナニカの存在を完全に信じ切っている敬太が、座っていた机から飛び降りて言った。
「何言ってんだよ、絵留。
ナニカが這ったような跡を見ただろ?
霞は実物見てるし、絶対にいるんだよ。
見間違いやホラ話にされて、たまるかってーの!」
「あ、あのね敬太。
絵留の意見に賛成って訳じゃないけど、私もこれ以上騒ぎたくないっていうか……」
「あー、俺もナニカに会ってみてー!
そうだ霞、ナニカの特徴を整理しとこうぜ。
もう一回詳しく教えろよ」
ダメだ……。
ワクワクしている敬太を、私には止められない。
元は敬太に構ってもらいたくてついた嘘。
狙い通りになって嬉しいはずなのに、どうしてかな……ウソをついているという罪悪感と、それから何となく嫌な予感がしていて、素直に喜べなくなってきた。
ああ、私、何てことしちゃったんだろう。
でも、今更嘘でしたなんて、絶対に言えないし……。