ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
どうしてこの状況を楽しめるのか、私には理解できない。
狙われているのは、敬太だよ?
捕まったら、殺されちゃうんだよ?
恐怖を感じないのはどうして?
頭がおかしくなっちゃったの?
問いただしたい言葉はたくさんあったけれど、そんな暇はなく、私は敬太の腕を引っ張り走り出した。
「お、霞、やる気満々だな」
「違うよ、早く逃げないと!」
敬太を引っ張って走っているつもりが、すぐに逆になる。
敬太にリードされて4階の廊下を、奥へと走る。
その途中で、敬太はまた仕掛けておいた罠で遊び始めた。
紐を引っ張ると、天井からアイスピックが20本ほど落ちてきて、ナニカの顔や体にグサグサと突き刺さった。
でも、ダメージは与えられない。
ナニカはアイスピックを体内にヌルリと飲み込んで、前進を続ける。
ナニカが通り過ぎた後のヌメヌメ光る廊下に、たくさんのアイスピックが転がっているだけだった。