ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
これもやっぱりナニカには効果がなく、まるでコーヒーゼリーを網に入れて絞り出したような感じで抜け出してしまった。
バラバラになった体のパーツも、すぐに集合してひとつにまとまり、こっちに向かってくる。
「うぇ、気持ち悪りぃなアイツ」
敬太はそんな感想を口にしながらも、楽しそう。
その後も消火器の消化剤を撒き散らしてみたり、大量の爆竹に火を点けてナニカに投げ付けてみたりと、悪ふざけのような攻撃は止まることを知らない。
私は必死なのに……。
敬太がナニカに殺されちゃうんじゃないかって怖くて、早く一緒に安全な場所まで逃げたいのに……。
心の中にイライラが溜まってきた。
生きるか死ぬかの状況で、ふざけて笑っている敬太に腹が立った。
「ナニカって、スゲェな!
なにやっても死なねぇし」
敬太はボディバッグの中から今度は、ロケット花火を取り出している。
ナニカとの距離は7、8メートル空いていて、ライターと花火を構え、近づいて来るのを待っていた。
敬太の手から花火を奪い取った私は、床に投げ捨て、その頬を思いっきり引っ叩いた。
「いい加減にしてよ!
捕まったら敬太は死んじゃうのに、なに遊んでんのよ!」
敬太は驚いた顔をして私を見ている。
その顔が、涙で滲んでぼやけて見えた。