ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
「お願いだから、逃げようよ……。
怖いよ……また私のせいで誰かが死ぬなんて嫌だし、それが大好きな敬太だなんて……絶対に嫌なんだよ……」
泣きながら訴えると、敬太は真顔で話を聞いてくれて、「分かった」と頷いてくれた。
すぐそこまで迫ってきているナニカに背を向け、私の手を握って走り出す。
やっと分かってくれた……。
逃げる気になってくれた……。
そのことにホッとして涙を拭い、半歩前を走る敬太を見ると……その横顔は口の端がニヤリと吊り上がり、薄く笑っているように見えた。
あれ……?
私の涙の訴えに、反省してくれたんだと思ったのに……違うの?
まだ何かを企んでいそうな敬太の表情を怪しく思った時、階段を駆け下りて逃げていた私たちはちょうど一階フロアに足を着けた。
右に進めば体育館で、左に進めば理科や社会の専門教室と、正面玄関がある。
当然ふたりで左側に逃げるものだと思っていたら、敬太は階段の降り口でピタリと足を止め、繋いでいた手を離した。