ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
「敬太?」
「俺はこっち。霞はそっち。
ここで別れよう」
こっちと敬太が指差した方は体育館に続く廊下で、そっちとは玄関方向。
つまり、私は玄関から外に逃げて、敬太は校舎内に残るということだ。
「なに言ってんのよ!
一緒に逃げてよ!」
慌てて敬太の腕を捕まえようとしたけれど、「来るな!」と大声で命令されて、肩をビクつかせて立ちすくんだ。
敬太は素早く動いて私と4、5メートルの距離を取ると、ボディバッグの中から2リットルのペットボトルの容器を取り出した。
中には透明な液体が入っている。
キャップを開けて中の液体を、私たちの間の廊下に流し始めた。
「なにそれ……」
爪先が液体に触れそうで、2、3歩あとずさる。
辺りには鼻をつまみたくなるような、不快な臭いが立ち込めていた。
「これはガソリンだよ。触るなよ?
ここは火の海になる。霞は走れ。今すぐ外に脱出しろ」
ガソリン……。
その言葉に驚いて、さらに数歩下がった時、ブクブクッボコボコという音が大きくなっていることに気づいた。