ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
見上げると階段の曲がり角に、ナニカの顔が現れた。
「来たな……」
敬太は体育館の方へ数歩下がって、流したガソリンと距離を取った。
そして、丸めた紙のようなものにライターで火を点け、それを宙に放り投げた。
ボンッと大きな音がして、火柱が立ち上る。
気化したガソリンに引火したから、目の前の何もない空間が燃えていた。
ブクブクッボコボコと階段を下りてきたナニカは、火の中にためらいなく入って行く。
ナニカは火では燃えないのかも……。
敬太の姿は揺れる炎のカーテンに邪魔されて、見えなくなってしまった。
「敬太ーっ‼︎」
大声で名前を呼んで、煙と熱気を吸い込んでしまい、むせ返った。
赤かった火柱が黒い煙で覆われ、呼吸が苦しくなる。
一刻も早くここから逃げないといけないヤバイ状況に陥っていた。
熱さと煙に耐えかねて、私は敬太とナニカのいる方向に背を向け、玄関に向けて走り出した。
火災報知器のベルがけたたましく鳴り響き、ブクブクッボコボコという音がかき消されていた。