ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
グラウンドの校舎よりの真ん中辺りを走っている時、ふと、ある音に気づいて立ち止まった。
私の呼吸音と心音、雨音やサイレンの音に紛れて、さっきからあの音もずっと途切れずに小さく聞こえているのだ。
ブクブクッ……ボコボコボコッ……。
聞こえる……確かに私の少し後ろの方で、ナニカの出すあの音が聞こえ続けている。
敬太と別れた後も、ずっと……。
気づかなかったのは、1時間ほどもずっとこの音を聞いていたから、当たり前の背景音みたいな感覚になってしまっていたのか……。
それとも、敬太の心配ばかりしていて、自分の身に迫る危険について、考えが足りなかったからなのか……。
ナニカは敬太を追って、体育館に向かって行ったと思い込んでいた。
だって、ターゲットは敬太のはずだから……。
ごくりと唾を飲み込む。
恐る恐る振り向いて、懐中電灯の光を闇の中に向ける。
すると……絵留のイヤリングがキラリと光を反射してきた。
「うそ……」